カニ歩き映画ブログ

谷越カニが見た映画について書いてます

D・W・グリフィス『質屋の娘の恋 Romance of a Jewess』1908年

タイトルは『ユダヤ娘の恋』とも。現在は『質屋の娘の恋』と呼ぶらしい。ドキュメンタリー映画の元祖『極北の怪異』が『極北のナヌーク』に変えられたのと同じ経緯だろう。Jewessは少々軽蔑的に用いられる言葉らしいから。

 

この映画はグリフィスの作家性が出ているという点で『じゃじゃ馬馴らし』とは異なる。『ドリーの冒険』と同じ帰還の物語なのだ。帰還はグリフィス映画を読み解く重要なキーワードである。

質屋を営む一家の母親が死にゆく場面から映画は始まる。母は娘に形見のペンダントを渡して息絶える。その後娘は客の男性と恋に落ちるが、厳格な父は認めてくれない。結局二人は駆け落ちすることになった。女の子が生まれ、幸せを噛み締めながら暮らす二人だが、夫はハシゴから足を踏み外して転落死(怪我をするような高さには見えないのが初期映画のかわいらしいところだ)してしまい、娘も病に倒れる。女の子は娘からペンダントをもらい、質屋へやってきた。この質屋こそ娘の実家なのだ。父は女の子に渡されたペンダントを見てこの子が孫であることを悟り、娘の死期が近いことを孫から告げられ大急ぎで娘の元へ。再会した二人は抱き合って喜ぶが、娘はあえなく死んでしまう。

『じゃじゃ馬馴らし』はシェイクスピアの喜劇を映画化したもので、原作を知っている人に向けて作られた。この映画は『ドリーの冒険』と同じくオリジナルの物語だから、物語がわかりやすい。カメラは固定で、演出に光るものはないものの、悲劇的な物語の面白さと父親を演じる役者の演技力がこの映画を魅力的にしている。

映画技法を確立したグリフィスの原石時代の輝きを観ることが出来る映画だ。面白いけど、一般の映画ファンは見る必要はないと思う。キャリア初期のグリフィスの映画を観たいなら『ドリーの冒険』を観れば十分だ。


"Romance of a Jewess" (1908) director D. W. Griffith starring Florence Lawrence