カニ歩き映画ブログ

谷越カニが見た映画について書いてます

『DENKI GROOVE THE MOVIE?』2時間じゃ足りねえんだよ!

立川シネマシティで10日まで上映されていた『DENKI GROOVE THE MOVIE? 石野卓球ピエール瀧』を見てきました。

あるミュージシャンを取り扱ったドキュメンタリー映画にはいろんなスタイルがあります。松江哲明監督の『ライブテープ』はシンガーソングライター前野健太吉祥寺駅周辺でのゲリラパフォーマンスに密着した1カット74分の力作でしたし、ポピュラーミュージックのバックコーラスの実態に迫る『バックコーラスの歌姫たち』のように取材に取材を重ねて作る映画もあれば、『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』のように元々映画化を狙っていなかった、ハプニングから生まれた映画もあります。

DENKI GROOVE THE MOVIE?』は電気グルーヴの結成直前から現在までの姿を元メンバー砂原良徳CMJK、良き友・良きライバルとして同時代の音楽シーンを作り上げたスチャダラパーコーネリアス、メディアの側から彼らを見続けている山崎洋一郎などのインタビューとライブ映像を組み合わせた映画です。私は電気のファン歴8年の若輩者ですから、インタビューには知らない情報もあれば既に知っている情報の裏側もあり、概ね満足しています。当事者の口から語られる電気の裏側はコミカルさとシリアスさが同居しており、90年代中盤から後半にかけての電気の不安定さがヒシヒシと伝わってきました。貴重な初期のライブ映像も見ることができ、じき発売される映画のDVDには作中に登場したライブ映像が特典映像としてついてくるとのこと。今からとても楽しみです。

しかし、たった2時間の映画です。今年で27年になるキャリアのすべてに迫ることは到底不可能。あれの話が聞きたい!この話が聞きたい!という不満もあります。一番不満なのは、電気の現在についてあまり語られないことです。現サポートメンバーのAgraph牛尾憲輔については一言も触れられず、電気の復活に大いに貢献したはずの元サポートメンバーKAGAMIはその死が軽く触れられた程度。アルバム『VOXXX』の製作に携わったKAGAMI、DJ TASAKAの二人のうち、どうして「密林の猛虎打線」「浪曲インベダー」「エジソン電」といった「どうかしてる曲」の作曲者に名を連ねるDJ TASAKAが電気から離れ、クレジットに「フラッシュバックJ-popカウントダウン」のプログラマーとしてのみ名前を残すKAGAMIがサポートメンバーに抜擢されたのか。当時のインタビュー記事を読めばわかる情報なんだろうけど、国会図書館に行かないとバックナンバーは読めないし。実はここが私が最も知りたいことだったので、ちょっとがっかりしました。石野卓球ピエール瀧にインタビューをせず、周辺にいた人々にインタビューをするというスタイルを採用しているため、2010年に亡くなったKAGAMIから直接言質を取ることができないからなのでしょうが、それならKAGAMIの相棒だったDJ TASAKAから詳細を聞き出すこともできたのでは……卓球の失踪癖とか『ORANGE』前後の世間からのなめられっぷり(パロディバンド・宇宙犬の登場)とかイ・パクサとの交流とか復活以降の電気のビジュアル面に貢献している田中秀幸にインタビューしないんかいとか……いろんな不満をたらたらと述べたくなるほど本作の出来はいいのです。

電気のことを全く知らない人たちへの入門編としても、デビュー当時から電気を追いかけている年季の入ったファンたちの青春映画としても、私のような「モノノケダンス」以降のファンにとっても楽しめるポイントをしっかりと抑えています。『KARATEKA』までのアイドル的な人気の上昇から『VITAMIN』『DRAGON』での本格的テクノバンドへの変容、代表曲「N.O.」の電気周辺での立ち位置などをインタビューで振り返る前半パートは編集の心地よさとインタビューの内容の興味深さに引き込まれたし、『A』から『VOXXX』までの間の海外進出の裏側が砂原の口から語られるパートのスリリングさは『電気グルーヴのメロン牧場 花嫁は死神』では味わえない、本作のスタイルだからこそ、当事者・砂原の表情を読み取ることができる映画だからこそ醸し出されるものだったし。いいところもある分だけ欲も出てきてしまうのです。

惜しい部分を上げていけばキリがありません。モグラネグラとか伊集院光とか狂人ドラム大会とか人生の元メンバーとか世界のケン・ニシイとかね。でもこれらは映画とは関係ない部分なので仕方がない。『DENKI GROOVE THE MOVIE?』はあくまでテクノバンド電気グルーヴのミュージシャンの側面に迫ったものなのだから。そういう需要は「千歳空港大パニック」でなんとかして……そういえば90年代中番のソロワークにも触れていなかったな。AppleMusicに卓球と砂原のソロワークをまとめた『PARKING』があって驚いたばかりなのに。2も作れよ!2時間じゃ全然足りねえよ!伊集院がインタビューのオファーなくてがっかりしてたよ!

 

 

 

DENKI GROOVE THE MOVIE? -THE MUSIC SELECTION-

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